2015年6月18日木曜日

在宅医療の報酬体系に「患者の重症度」

2016年度診療報酬改定に向けて、在宅医療については、疾患や重症度など「患者の状態像」に応じた評価の導入や、高齢者向け住宅向けの評価の適正化などを検討していく方向が、5月27日の中央社会保険医療協議会・総会で厚生労働省から示されました。






在宅医療の報酬体系は、現在「患者の居住する施設の種類」や「訪問回数」に応じたものになっており、患者の重症度は考慮されていません。
しかし、厚労省が行った2012年度と2014年度改定の結果検証調査によると、訪問診療の患者のうち約15%は「スモンや重症筋無力症などに罹患する、いわば重症者」ですが、その一方で、約46%は「健康相談や血圧測定のみの、いわば軽症者」であることが分かりました。
また患者の状態と訪問回数、診療時間を見ると、人口呼吸器の管理などが必要な重症患者では訪問回数が多くて診療時間も長くなっています。
このため厚労省保険局医療課の宮嵜雅則課長は、「患者の疾患・状態に応じた評価」を検討してはどうかと述べました。
 在宅患者の状態を評価するのにどのような指標を用いるかも課題になりました。厚生労働省が5月27日の中医協総会に示した資料からは、前回の2014年度改定で新設された機能強化型訪問看護ステーションで「重症患者」とされた、末期の悪性腫瘍、スモン、多発性硬化症、重症筋無力症、など「特掲診療料施設基準等別表第七に掲げる疾病等の利用者」が参考になりそうです。
 診療側の鈴木邦彦委員は5月27日の総会で、「重症患者が必ずしも手厚い治療を必要としているわけではない」と述べられ、単純に「重症患者は高い点数」とする考え方に疑問を投げ掛けました。
在宅医療の診療報酬では「訪問回数」が大きな要素となっていますが、「訪問診療の必要性だけでなく、診療報酬の算定要件によって回数が決まっている可能性がある」とも指摘されます。
 厚生労働省の調査では、外来では月1回の診療が最も多いのに対し、在宅では月2回の診療が最も多いことが分かっており、「月2回の訪問」は在宅時医学総合管理料の算定要件などと合致します。また、訪問回数と患者の重症度(療養病棟入院基本料の医療区分で測ったもの)との間には特段の関係は認められません。
さらに、訪問回数と患者の満足度との間にも関係がないという調査結果もあります。
 これらから宮崎医療課長は、「診療頻度(訪問回数)に応じた評価をどう考えるべきか」と問題提起しました。現在は、訪問回数が月2回になると報酬が大きく上がる報酬体系ですが、「月1回から月2回への階段」をどう考えるのかが今後の論点になりそうです。
在宅医療では、高齢者がどこに居住しているかによっても診療報酬が変わります。現在は、戸建て住宅などの「居宅」と「看護職員が配置されていない高齢者向け集合住宅」(特定施設等以外)は同じ区分で、「看護職員が配置されている特定施設等」(有料老人ホームなど)に比べて高い報酬が設定されています。
しかし、厚生労働省が両者について患者の状態などを調べたところ、高齢者向け集合住宅を中心に診療する医療機関では、居宅を中心に診る医療機関に比べて、「重症者や看取り患者の割合が小さい」ことなどが分かりました。
また、高齢者向け集合住宅を中心に診療する医療機関は、同じ日に同一の建物で効率的な診療を行っていることも明らかになりました。
さらに、特定施設などに入所する患者は「褥瘡の処置」や「胃ろうなどの管理」「創傷の処置」などの医療処置を必要とすることが多いことも分かりました。
こうした点を踏まえ、宮嵜医療課長は「現在の居住施設区分が正しいのか」と問題提起しています。
在宅医療では「同一日に、同じ建物に居住する人に訪問診療を行ったか」によっても診療報酬が変わります。これは、訪問診療を行う医師らの移動コストを考慮したもので、同じ日に同じ建物に居住する2人以上の人に訪問診療を行った場合には、診療報酬は低くなります(同一日の減算)。
 ただし、厚生労働省の調査では「2-9人を訪問した場合」と「10人以上を訪問した場合」とで移動コストが異なる(後者の方が小さい)ことが分かり、宮嵜医療課長は「よりきめ細かな報酬設定を考える必要があるかもしれない」と述べました。
また、前回の改定では同一日の減算を非常に厳しくし、改定前のおよそ半分、単独訪問のおよそ4分の1に設定されました。しかし、医療現場から「重症者への訪問も行えなくなる」との悲鳴が上がったため、「単独訪問が行われた患者については、その月は同一日の減算を行わない」という例外規定が設けられました。
 この点について厚生労働省が調査したところ、「複数患者がいる建物でも、22%のケースでは単独訪問を行っている」「訪問回数が月40回、50回と増えても、頻回の訪問が行われている」「末期の悪性腫瘍など重症患者の割合は、単独訪問と複数訪問で変わらない」など、医療現場からの訴えとは異なる状況が分かりました。「高点数を算定するために単独訪問を行っている」と、うがった見方をすることもできます。
調査結果を踏まえて鈴木委員は、「見直しも考えられる」と述べており、次回改定に向けて適正化が図られる可能性もありそうです。
 こうした課題の解決に向けて、在宅医療の報酬体系は大きく見直されることも予想されます。診療側の松本純一委員(日本医師会常任理事)は「一物多価の報酬体系は好ましくない」と述べており、この意見も踏まえると厚生労働省保険局医療課には極めて難しい作業が強いられそうです。








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