2014年10月9日木曜日

介護事業経営実態調査  厚生労働省 社会保障審議会・介護給付費分科会

 厚生労働省は10月3日に、社会保障審議会・介護給付費分科会の「介護事業経営調査委員会」を開催し、平成26年の「介護事業経営実態調査」結果が報告されました。介護報酬改定には、「介護給付費(単位数)に経済動向を反映させる」「介護現場の課題を解決する」などさまざまな目的があり、介護現場の目線で考えると「介護事業所・施設の経営を安定化させる」ことが重要となっております。このため、介護報酬改定にあたっては、介護事業所・施設の経営状況を調べ、その結果を改定内容等に反映させることとなっています。平成26年調査の結果をみると、まず目を引くのが有効回答率の高さです。前回の平成23年調査では全体で30.9%(サービス種類別では22.1%~45.2%)にとどまっていましたが、今回の平成26年調査では48.4%(同じく18.1%~62.3%)となっています(17.5ポイントの大幅増)。この背景について厚労省当局は、「回収率は平成23年調査、平成26年調査ともに70%程度だが、記入に不備のない有効回答率が大幅に増加しています。調査票を見直し、記入しやすくした効果がでているのではないでしょうか」と分析しています。有効回答率が高くなった副次的な効果として、たとえば収支差がプラスマイナス50%を超えるような「外れ値」が少なくなっている点も注目されます。この点を捉えて藤井委員(上智大准教授)は、「調査の精度が上がっている」と評価しています。さらに、サンプル数が増加したことから、さまざまなクロス分析(たとえば地域別・規模別・設立主体別などの組み合わせ)も可能になってきます。診療報酬改定においては、医療機関等の経営状況を調べる「医療経済実態調査(うち医療機関等調査)」を行っているが、回答率等の低さが大きな課題となっています。






「収入に対する給与費の割合」、つまり人件費割合をサービス別に見てみると、次のような状況がうかがえます。●施設系サービスでは、平成23年と比べて「老健施設」で若干増加しているものの、大きな変化はなく、50%台半ばとなりました。●訪問系サービスでは、平成23年と比べて「夜間対応型訪問介護」と「訪問リハ」では増加していますが、他では若干の低下が見られ、60%台半ばから80%台半ばに分布しています。●通所系サービスでは、平成23年と比べて大きな変化はなく、60%程度となりました。●その他のサービスでは、30%程度から80%程度にばらついており、「特定施設入居者生活介護」で平成23年からの低下が目立ちます。
 委員会では、「概ね平成23年と同程度の水準を維持している」との総括コメントを打出しています。また、収支差率をサービス別に見てみると、次のようになっています。●施設系サービスでは、平成23年と比べて、「地域密着型特養」で大きく上昇、「老健施設」で大幅な低下、「特養」「介護療養型」で若干の低下が見られます。ただし、いずれも5%以上という状況です。●訪問系サービスでは、平成23年と比べて、「訪問介護」「訪問看護」「訪問リハ」で大幅増加、「訪問入浴介護」「夜間対応型訪問介護」で低下しています。「訪問介護」「訪問入浴介護」「訪問リハ」「訪問看護」では5%以上となっています。ちなみに新設された「定期巡回・随時対応型」は1.0%をわずかに下回っています。●通所系サービスでは、平成23年と比べて、「通所リハ」と「認知症対応型通所介護」で増加したが、「通所介護」は低下しています。ただし、「通所介護」では10%以上をキープしており、他サービスも5%以上という状況です。●その他のサービスでは、「特定施設入居者生活介護」で大幅な増加を見せ、「認知症対応型共同生活介護」「短期入所生活介護」「地域密着型特定施設入居者生活介護」「小規模多機能型居宅介護」「居宅介護支援」で若干の増加となったが、「福祉用具貸与」は低下している。「居宅介護支援」と「複合型サービス」はマイナス(赤字)となっています。

 厚生労働省は詳細な個別サービスの状況も示しており、たとえば「訪問介護」や「訪問看護」では、収支改善の方向に事業所の分布が顕著にシフトしている状況が伺えます。これらを概観して、委員会では「一部サービスを除き5%以上となっており、10%以上となっているものもある」と総括しています。収支差が10%を超えたのは、「認知症対応型共同生活介護」「通所介護」「特定施設入居者生活介護」の3サービスです。委員からは「収支差率が改善し、経営状況が安定してきていることが伺える」とのコメントが相次ぎました。もっとも、収支差率がどの程度の数値となれば経営が安定するかは、設備投資状況などもさまざまなため、施設ごとに考えなければなりません。厚生労働省老健局の迫井老人保健課長は「切りのよい数値として5%や10%の数字をあげたが、(何らかの指標を意味するなどの)他意はない」と説明されています。また、収支差率改善等の要因等については今後の分析を待つ必要がありますが、調査精度が上がったことを一因とする見方もあります。たとえば、前述のとおり地域密着型特養では、平成23年に比べて収支差率が6.1ポイントも上昇しているが、藤井委員は「平成23年調査では収支差率マイナス10%程度の施設が多いが、ここには開設直後で、利用者を確保できていない施設が多く含まれていると考えられる。このため平成23年調査結果が低くなったと読むこともできます」との考えを明らかにされています。なお、調査結果全体を通じて藤井委員は、「1人あたり給与費が増加している(介護療養型以外は、平成23年に比べて増加)が、稼働率を上げることで収益を確保した」と指摘されました。もっとも藤井委員は、「職員のスキルが上がり(給与費増の要因の1つ)、効果的・効率的なサービス提供が可能となったことから、稼働率が上がりました」という見方と、「収益を上げるために稼働率を高め、現場が疲弊している」という見方の両方を提示し、「単純に収益改善という数字だけを見るのではなく、サービスや労働の中身も検証しなければならない」との考えを述べられています。これらの調査結果と、委員会による分析結果は、近く介護給付費分科会に報告されます。個別サービスの状況(たとえば前述の地域密着型特養の収支改善など)については、分科会で議論されることになります。

介護事業者の経営の安定化、社会福祉法人の利益率と剰余金、医療と介護連携、これらのポイントを踏まえながら、絡み合うすべての問題を解決していかなければならず、来年度の介護報酬の改定もそのきっかけとなることは間違いありません。ただ介護従事者の離職率が高い状況において、いかに介護業界全体の底上げを図るかは、介護報酬が定められている以上、国の施策なしでは難しいところがあります。効果的な施策が無い中で今はスケールメリットで安定化を目指さざるを得ない状況です。ただ各事業所の集約・寡占化が進めば地域おける競争が働かなくなり、不合理な地域が出てこないとも言い切れません。地域包括ケアシステムとは、言葉の上では綺麗なモノですが、実現に向けてはクリアしなければならない課題は山積みです。








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