2014年7月3日木曜日

病院建設の苦境

東北を中心に東日本大震災で全壊するなどした病院の建設を計画する被災自治体が、資材や労務費の高騰に頭を痛めています。宮城県石巻市は市立病院の再建費が5月の実施設計で当初の2倍に跳ね上がり、開院までのスケジュールに暗雲が立ちこめています。宮城県内では南三陸町や気仙沼市も同様の問題に直面しております。被災地の医療再生は喫緊の課題であるため、国や県に新たな財政支援を求めている状況です。

津波で被災した石巻市立病院はJR石巻駅前に移転再建される計画です。新病院は7階建て、延べ床面積約2万4000平方メートルで、6診療科に180床を設ける計画です。







石巻市は昨年の基本設計で建設費を概算で約70億円と想定し、財源に県の地域医療再生基金を当て込んでいました。ところが、実施設計で積算したところ、建設費は約140億円に膨れ上がっておりました。基本設計と施設に大きな変更はありません。むしろ天井を低くしたり2階以上を鉄骨に替えたりとコスト削減を図りましたが、2倍に膨らんだ状況です。石巻市は「基本設計は同規模病院の実績などを参考にしていた。要は資材や電気設備の価格上昇に加え、職人の人件費などが急騰したことが影響している。」と説明しています。石巻市は市議会6月定例会に関連議案を提出し、入札を経て夏ごろに着工したい考えです。ただ現状として増額分の財源はめどが立っておらず、2016年7月予定の開院がずれ込む恐れも出ています。

南三陸町は被災した公立志津川病院に代わり、「南三陸病院・総合ケアセンター(仮称)」を新築する計画です。5月の入札は約52億円で落札されました。7月ごろに着工し、15年度後半の完成を見込む計画となっております。しかしこの契約には「インフレスライド条項」が盛り込まれていました。着工後に工事価格が上昇した場合、南三陸町は差額を業者に支払うというものです。南三陸町は「東京五輪関連の工事が始まり、工事費は倍になる可能性もある」と不安をのぞかせています。

気仙沼市は17年度の開院を目指して、老朽化した市立病院の移転新築を進めています。現時点の予算は約210億円です。建設費高騰などを見越した気仙沼市は昨年度、当初より約16億円増額しましたが、2月の入札は不調に終わってしまいました。建設費は地域医療再生基金など122億円に加え、気仙沼市の病院事業債と合併特例債で賄う予定です。気仙沼市は2度目の入札に向けて設計変更していますが、病院機能を縮小することはできず、見直しは限定的になるとみられています。現状では、建設費の増大が起債額にはね返ります。気仙沼市は「上積みは避けられないが、財政状況から市単独で全てを負担するのは難しい」と明かしています。

ただこれらの問題は被災地に限った話ではありません。地震などへの対策は多くの病院にとって大きな課題であります。地域で安全・安心な医療提供を継続するために、各地で病院の建替えも進んでおります。それは、既存の病院の耐震性に不安がある病院も多いからです。1981年(昭和56年)に耐震基準が大きく改正され、新耐震基準が誕生しました。 新基準では、地震による建物の倒壊を防ぐだけではなく、建物内の人間の安全を確保することに主眼がおかれました。旧基準の震度5程度の地震に耐えうる住宅との規定は、新基準では『震度6強以上の地震で倒れない住宅』と変わりました。古い病院は、この新耐震基準を満たしていない場合も多いのです。また沿岸部に近い病院では津波対策もしっかり考慮しなければならなくなりました。

赤字の病院も多い中で建替えによる病院の財政への負担は非常に大きなものです。公的病院であれば補助金等もありますが、私立病院はそのようなモノも無く自前で行なわなければなりません。しかし、医療の役割として救急や小児科など地域の医療の公的役割も担っています。病院は不採算部門でも止めることはできない中、病床の機能報告をするように行政は迫っています。混合診療の拡大により、医療提供サイドも貧富の差が拡大することは予測されます。

いかに地域の医療を守っていくか、各私立病院に頼ってきた日本の医療体系の歪みがここにきて大きく露呈してきたわけですが、国や各自治体が上手にコントロールして頂かなければ、崩壊の危機を迎えております。






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